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無慈悲なくーなな

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□ 最上級の祝福を □

その一日に最上級の祝福を-11-

久遠があんまり存在感ないターンです(^-^;

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Black Suit / Robert Sheie

【 その一日に最上級の祝福を-11- 】


 「いらしてたんですね、七王様」
 西園寺さんは思いがけない偶然に驚いた素振りもあまり見せず、柔らかに微笑みをこぼした。

 「西園寺さん。どうして、またここに?」
 「…ちょっと用がありまして」
 「用?どんな」
 不思議に思って訊ねた俺に、西園寺さんは意味ありげに俺を見て微笑む。

 「……?」

 その笑みには、何だか昔見覚えがある。
 良い意味での悪戯めいた企みや、秘め事を孕んでいる時のそれだ。
 その笑みを見て、子供心の延長がまだ僅かながら残った心の一部が、うずっとざわめいた。

 ――何だろう?

 純粋な好奇心が、頭をもたげる。
 西園寺さんは、こう見えてサプライズするのが好きだし、人を驚かせるのがとても上手いのだ。
 過去の実績は、否が応でも『期待』の二文字を自分の中で膨らませる。
 心を許した相手になら、時に仕掛けられるのも、罠にはまるのも悪くはない。
 西園寺さんになら、掌の上で踊らされるのも良いかなと、そう思わせる包容力と人間性があった。


 凛とした黒衣を纏っているのに柔らかさがいつも内から流れ出ていて、張りつめた空気とは無縁な世界で生きている。
 特定の美徳を、いつも心の内に身に着けている。
 柔軟でしなやかなのに、同時に曲げることができないものが、底にぶれない軸がある。周囲に順応しながらも、実はしっかりとした考えを持っていて周りに影響されない。
 そんな器用ながらも強さがある世渡り上手の西園寺さんは、昔から自分の憧れだった。
 流されやすく、何気に周りの影響を受けやすい自分は、いつも周囲とは一歩身を引いて表向き平気なふりで何となくやり過ごそうとしてしまう。
 だから自分にないものを持っている西園寺さんの傍にいると、揺らぎやすい自分も安定するような気がして、何だか安心できたのだ。

 「西園寺さん…何?」
 俺は好奇心に負けて昔そうしていたように、首を傾けて聞いてみた。
 「………」
 西園寺さんは無言のままふっと含み笑いすると、端麗な目を細めて人差し指を口元に当てた。

 しーっ、もうすぐですから楽しみにしていて下さい、良い子で。

 そういう意味合いを含んだ合図。
 俺はよく知ってる。何度も過去にあった光景と現在が重なる。
 これから先は黙って、大人しく西園寺さんのする事を待てばいいのだ。
 なので俺はひとまず言葉を休め、沈黙の中にそっと身を沈めた。


 「こんにちは、西園寺です。注文のものを取りに伺いましたが、今ちょっとよろしいでしょうか?」
 「はい。どうぞこちらへ」

 西園寺さんは、カウンターにいる店主とおぼしき人物と短い言葉を交わすと、共に厨房の奥へと消えていく。
 視線は興味をそそられて、西園寺さんの後を追う。
 知りたいと思う欲求を惹きつけるのが上手なあの人は、普段からこうして俺の関心をさらっていくのが、前々からのお約束だった。

 まるで気になる内容のページをめくる手を止めるように、俺もまた動きを止めて西園寺さんの向かった先をじっと見つめていた。

 やがて時をおかずして、厨房の奥から西園寺さんが店主と一緒に姿を現す。
 現れた西園寺さんの手には、トレイが1つ。
 その上には、ワンホールのケーキが見目良く乗せられていた。

 生クリームに苺を主役として、ぶどう、オレンジ、キウイ、グレープフルーツ、ブルーベリー、フランボワーズと、フルーツがたっぷりデコレーションされたケーキが、色鮮やかに目に飛び込む。

 「…あ、」と思ったその時には、西園寺さんはもう距離を詰めて迷わず俺の方へと来ていた。そしてすぐ傍に来ると足を止め、軽くお辞儀をしてにっこりと微笑む。
 間近で昼間に見る西園寺さんは、また品のあるやわらぎに穏やかに包まれていた。

 「…七王様、本日がお誕生日ですね。僭越ながらお祝いさせてください。これは私からの、ほんのお祝いの気持ちです。…お誕生日、おめでとうございます」

 ゛Happy Birthday˝と、チョコレートのプレートに流麗なタッチで書かれてあるそのケーキが、テーブルの上に置かれる。

 「…西園寺さん」

 驚いたまま西園寺さんを見上げると、また新たに1つにっこりと微笑が口角に浮かぶ。

 「10年以上ぶりの再会で図々しいとは思いましたが、このタイミングにせっかく会えたという事で、昨日こちらに頼んでおいたんです。このお店は前から美味しいと定評がありますし、何より七王様の好みの味だと思いまして…」
 淀みのない言葉は、そのまま俺の胸にすっと入ってくる。
 「西園寺さん…覚えててくれたんですね」

 こんなに時が経っているというのに、西園寺さんは傍にいてくれた時のように自分の誕生日を祝ってくれる。
 単に頭が良いだけなのかもしれないが、今もこうして脳裏にちゃんと記憶してくれているのは嬉しかった。
 時が刻んだだけじゃない、過去のどうでも良い事として忘れ去られているのではなく、今でも記憶に刻まれていると分かって…。

 「覚えてますよ、もちろん。忘れるわけないじゃないですか」
 

 俺の考えを見透かしたように、西園寺さんは告げる。

 「ゆっくり遊びに来ている所を邪魔してはいけないと思いましたが、昨日七王様の誕生日前にお会いすることができまして、いてもたってもいられなくなりまして…。出しゃばりかもしれませんが許してくださいね」
 「まさか…!そんなことないですよ。こうしてお祝いして頂いて、俺は嬉しいです。本当に」

 言葉の終わりに、若干目と口元を引き締める西園寺さんからは、本当に「申し訳ない」と思っているのが、少なくとも伝わってきた。
 きっと、別れを惜しむ暇もなく即日辞めて行った昔の事を悔いているのだ…。

 あまりにも急にいなくなった西園寺さんに対し、昔子供心に「見捨てられた」と、多少思わないでもなかった。
 確かに幼心に胸が痛んだ。しばらくは胸に穴が空いたようだった。
 けれどもそれも時と共にいつしか風化し、あの時は西園寺さんの人柄からして、きっとどうしてもやむにやまれない事情があったのだろうと、大人になった今では何となく推察する事ができた。
 今となっては一緒に過ごした日々は美しく彩られて、良い思い出として自分の中で眠っている。
 急な別れでも何でも、自分は西園寺さんの事が「好きだった」それに尽きる。

 だから西園寺さんを、責める気など更々ない。俺はすぐに否定して、素直な気持ちを口にした。

 「…相変わらずお優しいですね、七王様。昨日からの訪問も含めて、不躾な申し出を度々受け入れて下さって本当に感謝します」
 西園寺さんは、心なしか気持ちが晴れたように静かに微笑んだ。

 細やかな気の利かせ方と人あたりの良い振る舞いは、何年経っても変わっていない。
 あぁ、やっぱり西園寺さんだな…と、その人となりは俺を安心させた。

 「…ちょうと、何か甘いものが欲しいと思って注文しようとしてた矢先なんです。だからすごくタイミング良かったですよ」
 「本当ですか?それは良かった」

 ふっと、互いに昨日よりもずっと打ち解けたように笑う。
 何も言わなくても、その笑い1つで今の心の様を見通すことができるようだった。

 「では、これから相川様とゆっくりケーキを食べてごくつろぎください。さすがに、昔みたいに蝋燭に火を灯して、誕生歌を歌うのはもう避けたいでしょう?…それとも、良ければまたしてさしあげましょうか?」
 西園寺さんは悪戯っぽく笑いを含んだ目じりに、細い糸ほどの皺を刻んで聞いて来る。
 「いえ、それはさすがに遠慮しときます」
 俺は片手を上げてすかさず『NO』の手振りをして、くすっと口元で笑みを転がして断った。

 「では、また何かありましたらおっしゃってください。…と!申し訳ありません。後1点失礼いたします」
 「はい?」
 「実はこのケーキを持って伺う時に一緒に、特別な日にここに滞在するお客様へ、会社からの誕生日サービスの一環で、花束をセットで持っていこうと思っていたんです」
 「そうなんですか!?」
 

 そんなサービスがあったとは驚きだ。知らなかった。
 そもそも誕生日にここに来ると言う事がなかったからだろうが。

 「はい、そうなんです。社の方で、お客様の誕生日等は全てデータとして把握していますので」
 「へぇ…」

 個人情報も、別荘地で快適に過ごせるサービスとして上手く活用されているわけか。

 「ありがたいですね、それは。気の利いたサービスで」
 女性向きなサービスだな、と思う。まぁ俺は男だけど、してもらう分には嬉しい。
 「事前にお電話しようと思っていたんです。何時ごろにお伺いしたらよろしいでしょうか?」
 「そうですね…」

 俺は首をひねって相川の方を見る。
 どうする?と、無言で持ちかけてみる。
 夜は一緒に2人でゆったり過ごしたいから、それまでに…となると、夕方までになるか?
 相川が夜は料理したいと言っていたから、材料の調達や料理の段取りとかあるし、そんなわけで時間の調整は相川にと思っていた。

 相川はそんな俺の視線を受けて、
 「…では、15時頃でどうでしょうか?」 と言った。

 言葉と共に俺はうなずく。
 これから諸々必要なものを買いこんで帰って、たぶん一息ついた頃だ。15時の休憩時と言う事でタイミング的に良いと思った。

 お茶を飲んで、適当に甘いものをつまんで……あ、今目の前にあるこのケーキがちょうど良いか。ホールケーキで、これから2人で食べても絶対に残る量だから、持って帰るのは確定だし。
 それに、欲を言うなら西園寺さんと…後、もうちょっとだけ話してみたい気がするし。昨日も話したばかりだが、また向かい合って追加で話してみたい事がある。
 よく考えたら、昨日俺は西園寺さんの近況もあまり聞いていなかったから、それも単純に知りたいのだ。それを聞けば離れていた間に何があったか、知る手掛かりになるかもしれない。
 ―と、言っても西園寺さんはやはり仕事中だから、じっくり会話すると言うわけにはいかないだろうけど…。 


 「15時頃ですね、かしこまりました」
 2人の意をくんで、西園寺さんはにこやかに応えた。
 「では、また後ほど」
 「はい、また」

 西園寺さんはそのまま颯爽と身をひるがえし、ドアを抜けて立ち去って行った。



 「びっくりしたなー。ほんとこっちに来てから思いがけない事ばかりだ…」
 「…そうみたいですね」
 俺の独り言に、相川は律儀に応じる。
 「うん、予想外に色々付き合あわせてわりぃな…」
 内心、面白くないだろうなと言うのは分かっているので余計に申し訳ない。しかもまた相川を多少放ったらかしにして、これから話す予定だし…。
 「いえ、七王さんは七王さんの好きなようにしてくれていいんです。だから、気にしないでください。…これ、もう切りますね?珈琲が冷めない内に一緒にいただきましょう」
 相川は優しい言葉に合わせて、まだ真っさらなままの誕生日ケーキをカットしようとする。
 「あ、わりぃ。よろしく」
 相川に任せる。

 そうすると雪が降ったばかりのような真っ白なそこに、銀の刃が音もなく沈み込んでいった。
 きっと相川家でも同じように、相川が綺麗にケーキとかパイとか、兄弟分等分しているんだろうなぁと思わせる器用な手先だった。
 柔らかそうな生地に分け入っていくナイフの切っ先は、形を崩さず、迷いがなかった。

 そうして少しして相川と早速いただいたケーキを口にした。

 「…美味しい…」

 キメの細かい、しっとりとした生地。
 ふわっとした生クリームのうまみが、舌の上で静かに甘く広がる。
 
 一方で漂う珈琲の香りは冷めるに従い、まるで増していくかのようだった。
 

 《続く→》
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